寝違えは腋窩神経麻痺? その②

前の記事で腋窩神経麻痺と寝違えの関係について疑問を提示しましたが、ここでもう一度治療の方法を見てみましょう。
 

①リラックスして手をダラーっと下げる。下げた腕を首の痛む側の手をゆっくり後ろに、自然に止まるところまで引き上げる。止まったところで、20秒数える。
 
②次に肘を110度に曲げた(鈍角)状態から前方に上げていく。おそらく、真上まで上がる。その状態で20秒。

 
以上を3セットほどすれば、神経が開放されて首が動かせる。重症な人はさらに2~3セット続ける。
 
さて、後輩くんは確かにこの方法で症状は半減できた、といっていました。
 
しかしこの方法の元となった理論では症状軽減とつじつまが合いません。これはどういうことでしょうか?
 
このことについて、私なりの見解を述べてみようと思います。
 

このストレッチ効果は、本当にあるのか?

大胸筋のストレッチ効果

上記①の腕の操作をしてみると胸の筋肉が伸ばされる感じがします。
 
この動きは、IDストレッチというストレッチ法では大胸筋鎖骨部のストレッチ法に当たります。
 
大胸筋鎖骨部は文字の通り鎖骨近位部に起始を持つ筋線維です。
 
鎖骨には胸鎖乳突筋・僧帽筋(上部線維)という首の運動にかかわる筋が付着します。
 
首の運動にかかわるということは、首を支えるのにも重要ということになります。
 
大胸筋がストレッチされてリリースされることで鎖骨の運動がフリーとなり、これらの首を支える筋群の過緊張が解除されたと考えることができます。
 
また、大胸筋と胸鎖乳突筋は筋膜性の連結を有するとも言われているので、この点からも緊張の連鎖が解かれたとも考えられます。

 
前鋸筋のストレッチ効果

①と②いずれの操作も、肩甲骨の後退(内転)の動きになります。
 
この動きを行うことで、肩甲骨の外転筋である前鋸筋がストレッチされることになります。
 
前鋸筋が緊張すると、肩甲骨は外に開いた上に下がってきますので、肩甲骨と頭頸部を結んで支えている筋群は疲労・緊張してきます。
 
また、前鋸筋はアナトミートレインでいうところのラセン線に属しており、このラセン線には反対側の頭・頸板状筋や脊柱起立筋も含まれます。これらは後方から頸部を支える筋です。
 
このことから、前鋸筋のリリースが頸部後面の筋群の過緊張を連鎖的に解放したと考えられます。

 
小円筋のストレッチ効果

上記②の腕の操作は、IDストレッチでは小円筋のストレッチとされています。
 
小円筋はアナトミートレインでいうところの深後腕線に属し、このラインには同側の肩甲挙筋が含まれます。
 
肩甲挙筋は上位頸椎横突起から、肩甲骨の上角や内側縁の上部に付着しています。
 
このため、小円筋の緊張は首の深部の筋である肩甲挙筋の緊張をきたす恐れがあり、頸部の緊張のリリースにも重要な意味を持ちます。

 
胸郭(特に肋骨のセルフモビリゼーション効果)

②の操作で上肢を挙上しながら待つ間、当然ながら呼吸も行っています。
 
この上肢を挙上しながら呼吸するという動作は、胸郭(肋骨)のモビリゼーションの代表的な方法でもあります。(厳密にはこの腕の動きに加えて反対側へ体を倒し、呼吸は深く行います)
 
上位肋骨(第1・2肋骨)には斜角筋が付着します。
 
肋骨がモビリゼーションで動きが解放されることにより、斜角筋群の緊張が解放されるものと考えられます。
 
また肋骨の間を埋める肋間筋は、アナントミートレインでいうところの外側線に属しており、このラインに属する胸鎖乳突筋や頭板状筋を解放する働きもあると思われます。

 

大切なことは、先の施術展開

こうしてみてみると、後輩くんのやっていた方法は意外に理に適っていたものであるといえます。
 
但し、解剖学的見地からは腋窩神経云々のくだりは否定されるものであるため、この方法で改善しなかった場合のその先の治療展開は組み立てられなくなります。
 
因みに私が寝違えのような首の痛みの施術を行う際は、極力頸部自体に触れるのは避けて、肩甲帯・上肢・背部の緩めに加えて、筋膜性の連鎖を考慮して股関節や下腿を緩めることも行っていきます。
 
また生活指導としては、治療中に確認できた骨盤・股関節のコンディションを考慮した上で、普段の姿勢(安静時・作業時)の指導を行っていきます。
 
後輩くんが痛みが半減したところで治療が足踏みしていたのは、こうした背部や股関節への介入が行われていなかったためではないかと思います。

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